ZT 「中国の不思議なTwitter」で締めくくる2011年の中華IT事情
中国を訪れた外国人は、TwitterやFacebookを使おうとして中国の特殊事情を知る。そんな中国で普及する“中華Twitter”にも当局の監視が伸びるのであった……。
国家的大事故を隠蔽させなかった“中華Twitter”
2011年の中国におけるIT関連動向で最も目立ったのは、スマートフォンの普及と中国版Twitterといえる「微博」の普及だ。中国では、Twitterの登場後に、これをそっくりまねたサービスが数社から出た。しかし、現在は「新浪微博」と「騰訊微博」の2強状態となっており、合わせて3億人が利用しているという。2011年7月には新浪微博が日本に進出している。
微博が日本でも知られるようになったのは、7月の中国高速鉄道事故だろう。富裕層が利用する高速鉄道だったので、事故車両から乗客がスマートフォンで微博アプリを起動し、事故の状況を実況した。この結果として、Webニュースだけでなく、新聞雑誌テレビなどの既存マスメディアでもこの事故は「実際に起きたこと」として報道された(「隠しきれなくなって報道に踏み切った」という解釈もできる)。このように、微博ユーザーにはスマートフォンユーザーも多くいるため、この事件後、中国では事件を市民が撮影して実況することが増えている。
中国で微博を利用する時間帯は主に昼間。仕事中に微博で情報を発信するユーザーが多い(写真=左)。スマートフォンなどのモバイルインターネットデバイスの普及に伴い、中国でも事件事故の発生同時に微博で明らかになることが増えている(写真=右)
微博による中国高速鉄道事故の“告発”をきっかけに、中国政府当局は微博対応に取り組み始めたように思う。中国の各出版社が出す「ネット世論リポート」では、「微博はネットユーザーの新言論プラットフォームであり社会を動かす力がある」と分析しており、情報発信手段として微博に対応すべきとの提言を掲げている。その提言とは、「警察関係者や政府関係者は、微博に公式声明を真っ先に出し、市民と積極的な情報交換をして、警察や政府の信頼を得るべき」というものだ。これを「微博問政」と呼んでいるが、これに呼応したかのように、中国各地で地方政府が市民との橋渡しとなるべく微博のアカウントを作成し、Webニュースで自分たちの微博アカウントをアピールした。
一方、「ネット世論リポート」に書いてないが、結局デマだった「江沢民元国家主席死亡説」や中東発「ジャスミン革命」を筆頭に、微博でNGワードを設定することもしばしば発生している。最近では、北朝鮮の金正日総書記の死去やスティーブ・ジョブズ氏の死去に至るまで、何か大きな話題があれば、とりあえず微博でその単語が消される対象となる。それだけでなく、「消されるそうだ」といううわさが微博ユーザーの間で拡がることも増えている。さらには新浪微博や騰訊微博など有力微博サービスに対して「微博登録実名制度」を強いる規定を突然発表し、すぐに施行された。
以前、政府がPCへのインストールを強制した「グリーンダム」というソフトが中国国内の一般的ネットユーザーの間でも話題となった。グリーンダムの情報は多種多彩な媒体で拡散し、政府当局が「健全なネット環境」を提供したいと強調し強制するほどに「中国のインターネット環境が特殊であること」が“中国で普通の”インターネットユーザーにまで伝わってしまった。微博の普及としばしば見せる「微博サイトの謎の挙動」によって、「中国的国情にあわせた特殊なインターネット環境」を普通のユーザーが再び意識するきっかけとなった。
中華Twitterで展開する言論は少数インテリ限定
そうした、“中国の不思議な微博”を避けるためか、Twitter、Facebook、YouTube、そしてGoogleなどの「中国から利用できない不健全なサイト」にアクセスするために、「ネットゲーム加速器」(網遊加速器)と呼ばれるVPNサービスの利用者や販売者が増え続けている。易観国際では、2013年にはネットゲーム加速器の利用者が2800万人に達すると予測する。
中国では当局の統制が及ばない海外のSNSを利用するために、“ネットゲーム加速器”なるものが急速に普及している(写真=左)。淘宝網にはVPNサービスを販売するオンラインショップも出現した(写真=右)
気になるのは、微博による市民の情報ネットワークができた結果、中国は変わるのか、そして、中国人も変わるのかという点だ。中国史を専攻し、中国掲示板翻訳ブログ「大陸浪人のススメ」の管理人で、最近「中国・電脳大国の嘘 「ネット世論」に騙されてはいけない」という本を出版した安田峰俊氏は、微博が中国を動かす可能性について、「微博の意見は少数インテリの意見に過ぎない」と分析する。
「微博で政府批判など活発な言論を展開している人々は、少数派のインテリたちに過ぎない。少数のインテリたちが専制的な政治体制を批判し、民主主義や言論の自由を求めて“反体制”的な主張を行う。このような事例は、100年以上前の清朝末期から“中国ではよくあること”だ。しかし、そういう少数インテリの意見は、多数派の一般市民からは無視されることが非常に多い」
このように、多くの一般市民からは無視されるのが歴史的に見た少数インテリの意見らしい。その上で、安田氏は次のような“歴史的経緯”で中国の本質を示した。
「もちろん、現在の微博で見られるような、少数派のインテリが展開する政府批判が、革命を扇動したことも過去にはあった。ただ、過去の革命で“専制的な中国”が変わったかといえば、実は何も変わっていない。清朝、袁世凱の北洋軍閥、蒋介石の国民党政権、そして、天安門事件前の?小平政権と、あれだけ各時代にインテリたちが反対を示し、一部では大規模蜂起から革命を成功させたのに、結局専制体制にしかならない。“中国の根本的な性質”は変えられないし変わらない」
中国を治めるのは“脂ぎったオヤジ”
なぜ、中国の根本的な性質は変わらず、専制的な体制が継続することになるのだろうか。安田氏は、その理由を指導者の“性格”で分析する。
「言論で体制批判をするインテリは、総じて腕力に劣る。そういう人材は、革命で新しい政権を作っても維持できない。中国を統治して人民を束ねるのは、“専制的で精力的なオヤジ”だけが成し遂げられる。過去の事例からは、このように考えるのが妥当だ」
ならば、中東のように微博による民主政権の樹立は中国ではありえないのだろうか。
「仮に今後、中国経済が悪化して社会全体に不満がたまり、微博ユーザーが革命を扇動するような事態が起きたとしても、その結果として登場する新政権は、専制体制しかあり得ない。このことは、過去の経験から中国人自身が一番よく分かっている。だから、“微博で革命を起こす気にならない”のかもしれない。少なくとも、国内が安定している現時点で、微博で展開する論調から反体制運動が盛り上がることは中国社会の主流になり得ない」
以上のように考える安田氏は、「ネットは中国を変えない。微博は中国を変えない。中国や中国人の性質はそう簡単に変わるもんじゃない」と、世界で起きたSNSによる反体制運動が中国でも起きる可能性を否定する。この話を聞いた筆者も、中国に滞在して得られる“肌感覚”として同意できる。中華Twitterの微博が普及したからといって、中東のように中国も民主的に変わると期待するのは、中国を知らない理想論に過ぎない。
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