ZT 「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか
「早野黙れ」と言われたけど……科学者は原発事故にどう向き合うべきか
3月11日の東日本大震災にともない、発生した福島第一原発事故。日本科学未来館で行われたイベント「未来設計会議第2回『科学者に言いたいこと、ないですか?』」で、東京大学の早野龍五教授は、科学者の本分は「データの出典を示して、解析して、公開して、議論することである」という思いのもと、情報を発信し続けていると語った。
[堀内彰宏,Business Media
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国としても科学立国を目指してきたわけだが、3月11日の東日本大震災にともなう福島第一原発事故という危機的な状況に際して、科学者たちはどのような役割を果たしてきたのか。
政治的な駆け引きによる混乱や、耳目を集めるための極論も幅を利かせる中、科学者の本分は「データの出典を示して、解析して、公開して、議論することである」という思いのもと、事故直後から放射線や原発に関する情報を発信し続けているのが東京大学大学院理学系研究科の早野龍五教授(@hayano)だ。
12月17日に日本科学未来館で行われたイベント「未来設計会議第2回『科学者に言いたいこと、ないですか?』」で、早野氏は1人の科学者として事故後の状況分析に関わってきた経緯を語った。
※この記事は早野龍五氏のslideshareの資料とYouTubeの「未来設計会議[after 3.11] 2 科学者に言いたいこと、ないですか?」をもとに日本科学未来館の許可を得てまとめたものです。
講演する早野龍五教授(出典:YouTube)
原子炉についてはほとんど知らなかった
早野 まず「震災前に何をやっていたか」ということから、少し話をしたいと思います。大学の研究者として、ジュネーブの最近いろいろと騒がれているCERN研究所で、1つの研究チームを率いています。騒がれている研究※ではなく、反物質(質量とスピンが全く同じで、構成する素粒子の電荷などが全く逆の性質を持つ反粒子によって組成される物質)を使った研究をやっています。
※12月13日にCERN研究所は、現代物理学を支える標準理論で予言された17種類の素粒子で唯一見つかっていなかった仮説上の素粒子「ヒッグス粒子」の存在を確認する手がかりを得たと発表した(参照記事)。
研究チーム名「ASACUSA」は「アサクサ」と読むのですが、ロゴとして浅草寺雷門の提灯を使っています。日本のチームを率いて現地に行っているので、日本のお金をいただいて国際的な舞台で研究している、タックスペイヤーズマネー(公的資金)で研究させていただいているということは常に意識していました。ただ、私たちのやっている研究は、ものすごく浮世離れした研究です。
CERN研究所公式Webサイト
大学教員なので、授業もやります。その1つとして例えば、NaI検出器で何か(の放射線量)を測るという授業も行っていました。
中学校の理科の教科書も書いています。たまたま(2008年の学習指導要領改訂で)「原子核や放射線を教えなさい」と、30年ぶりに復活したのです。私が書いた教科書が検定を通ったのは原発事故の前で、その時に書かれたものの中では最も詳しく放射能について書いた教科書という評判がありました。ただ、福島原発事故が起きたので、各社はこの夏にあわててそれに対応した教科書を書くことになりました。
改訂されることになった中学校の理科の教科書
そしてこれは非常に個人的なことなのですが、「200ミリシーベルト」というキーワードがあります。毎月、飛行機でジュネーブと(日本を)往復して、年間2~3ミリシーベルトくらい浴びているのですが、それを10数年やっています。加えて10数年前、肺がんで右肺上葉を切除した時に、大変CTスキャンのお世話になったため、私はのべ約200ミリシーベルトくらい浴びていることになります。
事故前の私は、科学的な考え方や原子核物理、放射線測定の知識についてはある程度のレベルにあったと思っているのですが、原子炉についてはほとんど知りませんでした。非常に大雑把にどういうものかは知っていましたが、物理や中の仕組みについてはほとんど知りませんでした。外部被ばくについては自分がかなり浴びたため少し知っていましたが、内部被ばくについてはほとんど意識していませんでした。エネルギーについては、理科の教科書を書く時に日本のエネルギー政策を少し調べたくらい。これが私の事故前のリテラシーでした。
早野氏の事故前のリテラシー
データの出典を示して、解析して、公開して、議論する
早野 東日本大震災が起きた時は東京大学本郷キャンパスにいたので、みんなで安田講堂の前に避難しました。その日、電話は通じませんでしたがインターネットは使えたので、Twitterで「どうやったら帰れるかな」「どの電車が動いているかな」といったことをつぶやいていました。
地震直後の安田講堂前の様子
翌日家にいると、テレビからセシウム137というキーワードが流れてきたのにドキッとして、「これは何かマズイんじゃないか」と思いました。次画像は僕が3月12日につぶやいた最初の原発関連のツイートです。
その日の夕方には「放射線レベルが(敷地境界で)毎時1015マイクロシーベルトになった。これはシリアスだ」(3月12日17時30分)、「放射線レベルの大きな上昇があったということは,原子炉も格納容器も破損したと推定するのが妥当だな」(3月12日17時32分)ということをつぶやき始めました。
ただ、一次情報が乏しく、当時は次画像のようにテレビ画面をいくつか並べて、情報を見ていたのですが、「原子力安全保安院会見を聞いても、要を得ない。これだけの情報では、何が起きたか推測するのは僕には無理です」(3月12日18時6分)ということもつぶやいていました。
データは少しずつ出てきました。最初は福島第一原発からファックスで送られたものをコピーしてスキャンしたPDFファイルがアップされていました。しかし、これでは状況が分からないので、データの見える化をしようということになりました。私たちは科学者なので、データの出典を示して、解析して、公開して、議論するという普段のトレーニング通りのことを淡々と行いました。
例えば翌朝、「福島第一原子力発電所正門付近のガンマ線量測定値、東電公表データからグラフにしてみました」(3月13日7時49分)と次画像のようにツイートしました。ツイートした途端、これを約9万人が見ました。
また同じ日には、「青森から静岡までの放射線モニタのグラフを比較。女川と福島以外には、異常な数値を示しているところはありません」(3月13日16時23分)と次画像のようにツイート。これも約10万人が見ました。
こういうことをやっていると、「これだったら私も貢献できる」と思った方々、素人の方も、プロの方もいらっしゃいました。その1人が、高エネルギー加速器研究機構の一宮亮さんです。
「放射線を用いた研究を国のお金で行わせていただいている者の1人として出来ることをしようと考え」ということで、勝手連でさまざまなデータを集める「放射線量モニターデータまとめページ」を始めてくれました。みんなボランティアで、民間の方も含めてネット上でつながって、一次情報にリンクしたデータを出すようになりました。
例えば、次画像は理化学研究所の板橋健太さんが作ってくれた「茨城県東部 放射線モニターデータ解析」です。茨城県内で動いていたモニタリングポストのデータを使って、地図上で放射線量の推移が見られるシステムです。
放射線量の推移する様子は上のリンク先から見られる
大学本部から「早野黙れ」と言われたが
早野 その一方、とにかくクズの情報がたくさんあるわけですね。例えば、東京電力もたくさん間違いを犯しました。例えば、4月1日に東京電力が「福島第二原発敷地内空気から塩素38m(放射性物質)が検出された」と出したのですが、「【April Foolにしても,ありえない!】ガンマ線による東電の核種の同定に、明らかな間違いあり。プロなら全員同意するはず。もとのガンマ線スペクトル、一度見せてください」(4月1日8時7分)とツイートしています。
研究者はしつこいんですね。しつこいので、非常に長期的にいろんなものを見ました。文科省がなかなか全国の放射線量グラフを作らないので、研究者の仲間と一緒に作って、しつこくしつこく毎日毎日ツイートしました。
福島県内の放射線量グラフ作成も、12月になってもまだ続いています。グラフ作成者(谷田聖氏)は、僕の昔の教え子です。
次画像は高崎に設置されたCTBT放射性核種探知観測所が出しているセシウム134と137のデータを私がグラフにしたもので、3月から12月に至るまでずっとツイートしています。要するに私は何が起きているかを知りたいんですね。私自身が知りたいから、こういうことをしています。
それから冷温停止という話がありましたが、原子炉圧力容器下部の温度はどうなっているのかというグラフを作りました。「燃料がすべて下に抜け落ちている」と(東京電力が)言っていましたが、注水量に追従して温度が上下しているので、「すべて下に落ちているわけではなくて、まだどこかに残っているよね」とぶつぶつ言いながら、こういうグラフを毎日毎日更新しています。
次画像はちょっと毛色が違うのですが、太陽光発電にどのくらいの実力があるのか知りたかったので、8月からメガソーラー「浮島太陽光発電所」の毎日の発電量をグラフにしました。長期でやっていると、冬になるとやっぱり発電量が減ってくるとか、すごく成績の悪い日もあるとか分かってきます。
今まで、あまり喋ったことのない秘密を少し話しますと、やはり私たちは組織に属している人間なので、喋っていいことといけないことがあるかということで、東京大学が次画像のような通知を出しました。要するに「大学本部が仕切るので、個々の教員は勝手なことを言うな」という通知です。私は直接、大学本部から「早野黙れ」と言われました。そこで理学部長などとも少し相談して、黙らないことにしました。
次にSPEEDIの問題というのがあって、実は僕は事故前にはSPEEDIというシステムがあることすら知らない完全な素人でした。しかし、ちょっと調べたらSPEEDIというのもあるだろうということで、「原子力安全保安院の、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステムSPEEDIがフル稼働中ではないかな。しかし計算結果は公表されていない?」(3月15日14時20分)とツイートしています。
非常に気になったので、いろんな方とお話をして、3月17日に鈴木寛文部副大臣(当時)のところにうかがって、「とにかく情報をすべて出した方がいい」と言って、公開をお願いしました。私が言ったから公開されたわけではないと思いますが、それから1週間後の3月23日にSPEEDI試算結果が公表されました。
外国メディアという問題もありました。国内でのコミュニケーションということもありますが、国として外国にどう伝えるかということが非常に大事だった時期がありました。
3月某日に、官邸の某氏から「外国メディアに英語で専門的な内容を解説する役をお願いできますか」ということを私は頼まれました。私は「“すべての”情報を開示してくださるのですね?」と言ったら、官邸の某氏は「×××」とおっしゃったので、「残念ながら……」ということで実現しませんでした。しかしその後、私は可能な限り外国メディアの方にはレクチャーをしています。
現在の関心は内部被ばく
早野 こういうことをずっとやってきて、空間線量についてはだんだん分かってきたのですが、内部被ばくの実態はよく分からないことが気になっていました。
次画像はウクライナのホールボディカウンター研究所のWebサイトに貼ってあるグラフなのですが、ウクライナでは事故から10年経ってから内部被ばくが増えているということが分かります。
日本では今、どうなっているのか。今後、内部被ばくが増える危険性があるのかないのか。そういうことが気になったので、内部被ばくの状況を大規模に調べるには給食センターの食事を調べるのがいいということで、まず「給食一食まるごとセシウム検査」という提案をしました。かなりしつこくツイートして、ツイートするだけではなく次画像の紙を持って文科省に行き、森裕子文科副大臣に提案しました。
まだ国の施策はできつつあるところですが、喜ばしいことに多くの自治体がこれを今すでに行い、データを出し続けています。それから文科省もようやく重い腰をあげて、どういうやり方でこれを行うかを決め、予算を付けるという方向に行きました。私の提案が、国のプロジェクトになったということに非常に喜んでいます。
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内部被ばくを調べるためには、ホールボディカウンター※が非常に重要です。3月にどれだけ放射線を浴びたかを調べることについては、若干、遅きに失したということがありますが、しかし、今でも「汚染食品を食べているかどうか」を調べる上でこれは絶対に重要です。
※ホールボディカウンター……体内に存在する放射性物質から放出されるガンマ(γ)線を、体外に設置した検出器を用いて計測する装置。
ところが、「どうもあちこちに入っているホールボディカウンターからまともなデータが出ていないのではないか」という疑いを持たれたお医者さんが、私のところにデータを持って駆け込んでくるということが起きています。私も南相馬市立病院のホールボディカウンターを見せていただいて、そのデータをいただいて今、解析をしています。
ホールボディカウンターでの測定の様子(出典:放射線医学総合研究所)
こんなことをやっていますが、Twitterをすることによって私の家庭生活も、研究生活も見事に破壊されました。私は実は大学では管理職なので、4月になったらやめたかったんですね。3月中にやめたかった。
私がそのころに言っていたのは「餅は餅屋である」と。私は最初に言ったように、これらの何の専門家でもありません。「餅は餅屋のはずだったのに、何で僕がいまだにこんなことをやっているんだろう。本来の餅屋はどこにいるんだろう」ということを疑問に持ちながら毎日、ただ暮らしています。
原発について勉強しない大学院生たち
講演後に行われたトークセッションや質疑応答を終えた後、早野氏は「印象的だった」という1つのエピソードについて語った。
それは今年夏、全国から素粒子や原子核といった理学分野の大学院生たちが集まるサマースクールに、レクチャーに行った時のこと。レクチャーの前に「原発はどうやって止めるか」「ゲルマニウム半導体検出器とNaI検出器とガイガーカウンターは何が違うのか」というテストをしたところ、惨憺(さんたん)たる結果だったという。
「震災から4~5カ月経ったのに、友達や家族と会話したことはないのか。『あんた物理やっているんだってね。これどういうこと?』と必ず聞かれたんじゃないか。聞かれてその時答えられなかったら恥ずかしいと思って、勉強しなかったのか」と愕然としたという早野氏。「今後若い人を育てていくに際して、かなり心してやっていかないといけない」と締めくくった。
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関連リンク
未来設計会議[after 3.11] ?科学者に言いたいこと、ないですか?(YouTube)
早野龍五氏のslideshareの資料
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